<就業規則と労務管理> 労災隠し


労災隠しとは、労災保険の手続きをしないことではなく、労働安全衛生法に基づいた「労働者死傷病報告」を故意に提出しない、あるいは事実と異なる虚偽の内容を記載して提出することです。
従業員が労働災害で死亡した場合、または休業した場合は、その都度この報告書を労働基準監督署長に提出しなければなりません。休業が4日未満のときは、1〜3月分は4月末まで、4〜6月分は7月末まで、7〜9月分は10月末まで、10〜12月分は1月末までに提出します。(労働安全衛生規則97条)

労災隠しは労働安全衛生法違反であり、罰則もあります。悪質な場合は書類送検等の処分が行われます。マスコミによって事件が公表され、会社の信用が失われるのを目にした方も多いことでしょう。
検察庁への送検件数は年々増えており、厚生労働省はこの問題への対策を強化しています。

何故、労災隠しが行われるのでしょうか。

一つには、労災保険料が高くなるのを恐れているケースがあります。労災保険には「メリット制」というものがあり、業務災害の多寡によって±40%保険料が変動します。
しかし、経営者の方が「自動車保険のように、とにかく労災保険を使ったら保険料が高くなる」と誤解している場合もあります。メリット制が適用になるのは一定規模以上の会社であり、また、通勤災害は会社の規模にかかわらず保険料アップの要因にはなりません。

もう一つは、建設業などにおいて、無事故記録がなくなることで業務発注が減るのを恐れているケース。建設業では工事ごとに、元請けが労災保険に入ります。下請け・孫請けは事故が起これば元請けの労災保険を使うのですが、元請けとの関係悪化を恐れるあまり自社で治療費を負担し、報告をしないということがあるのです。
しかし、後々ケガの状態が悪化したり、障害が残ってトラブルになることも少なくありません。労災保険であれば治療費は全額出るところを、自己負担3割の健康保険を使うなど、被災した従業員の当然の権利も奪われる結果となり、会社への不満・不安が高まります。

本来「労働者死傷病報告」もメリット制も、労働災害の防止のためのものです。企業の不祥事に対して世間の目もますます厳しくなる中、無意味な「労災隠し」は非常に危険なことだと言えるでしょう。労災保険に関する正しい理解が望まれます。