■出向・転籍命令を拒否する
詳細な規定と従業員への周知そして同意を得るための誠意ある対応が重要
 『出向』とは、出向元会社に籍を置いて労働契約関係を維持しつつ、出向先企業に赴き、その会社とも新たな労働契約を結んで指揮命令に従い業務に従事する状態を言います。出向を命じるにあたっては本人の同意を取り付けることが必要とされていますが、 就業規則の規定、または労働協約で出向先の特定、出向期間、出向中の社員の地位、賃金、退職金、出向手当、昇格、昇給その他の基本的な労働条件に関して詳細な規定が置かれている事の外、十分な周知と過去にその規定に則った相当程度の出向実績があるような場合には、本人の個別的同意は不要であるというのが最近の判例の傾向となってきています。

 また、『転籍』とは、今の会社との労働契約を終了させ、転籍先で新たな労働契約を締結し業務に従事する状況を指しますから、元会社の業務命令で転籍を行うことはできません。どうしても、本人の同意が必要となります。

 ただ、それでも最終的には同意を得て有利に転籍を成し遂げるために、最低限度踏んでおくべき手順としては、 就業規則への詳細い込みと、採用時の労働条件の提示の際に同時に、将来、転籍の可能性があることを明示しこれに対する同意を得ておくことが考えられます。また、転籍に伴い当該従業員に不利益な部分が生ずる可能性があれば、理解を得やすいようにこれをフォローする提案を合わせて行い誠意を示してゆくことも重要です。

 また、実務上は出向・転籍のどちらの場合も、元会社と先会社との間で『出向協定』『転籍協定』 などにより、待遇に関しどちらの会社の就業規則を適用してゆくのか、労災の補償はどちらが担うのか、人事権限はどちらが握るのかなどについて事前に取り決めておく必要があります。