<就業規則と労務管理> 出向と転籍


「出向」とは、従業員が会社の雇用関係を維持したまま、他の会社において業務に従事することです。「在籍出向」とも呼びます。
これに対し、「転籍」とは今までの会社との雇用関係を終了させ(退職して)、新たに他の会社と雇用関係を結ぶことです。「移籍出向」と呼ぶこともありますが、「出向」と「転籍」は、使用者(会社)が変わる点で大きく異なります。

また、「出向」と認められるためには、業務提携や技術指導、関連会社間の人事交流等を目的とする出向契約に基づくものであること、業として行われるものでないことが必要です。
出向の対価を出向先から受ける等、事業性がある場合は「労働者派遣」や「職業紹介」に当たります。「出向」と言いながら実態が「労働者派遣」や「職業紹介」であれば、違法な事業とみなされ、処分の対象になるので注意が必要です。

出向も転籍も、従業員の同意が必要であり、会社が一方的に命令することはできません。
もともと労働契約を結んでいる会社から、指揮命令権や雇用主が他の会社に移れば、労働条件に大きな影響がありますので、労働契約の重要な要素の変更と考えられるからです。
ただし、出向については、就業規則や労働協約に具体的な定め(出向事由、出向先の範囲、出向中の労働条件、出向期間等)があり、それがあらかじめ従業員に周知されていれば、包括的同意があるとして、必ずしも個別に同意を得る必要はありません。
就業規則に「業務上の都合により出向を命じることがある」といった簡単な規定しかない場合は、出向先の労働条件や期間など具体的な事項について個別に労働者に同意を得なければなりません。

また、包括的同意があると認められる場合であっても、業務上の必要がない、人選が不合理、賃金が大幅に下がるなど従業員が著しく不利益を受ける等の事情があれば、出向命令が権利の濫用にあたるとして無効と判断される場合もあります。

転籍の場合は、これまでの会社の従業員としての身分を失い、新たな会社と労働契約を結ぶことになりますので、原則として出向命令時には対象従業員の個別の同意が必要となります。

従業員の労働環境に大きな変化をもたらす出向や転籍は、慎重に行う必要があります。就業規則の整備も重要です。